第4世代Kindleが示すもの

9月28日にAmazonが発表した新しいKindleはちょっとした驚きだった。Jeff BezosにSteve Jobsを見た人も多かったかもしれない。Kindleは電子書籍ビューワおよび汎用タブレットの現時点での最高の局所解だろう。もちろんもう一方にはiPadがいて、その中間領域はほとんど有り得ない状況になってしまった。つまり、その他すべてのタブレットは全滅。

最初にKindleが登場したのは2007年11月。iPhoneに遅れること約半年、iPadに先立つこと約2年半で、カテゴリーが異なるとは言え、ほぼ同じ時系列で発達してきたと言える。ただし、初代と第2世代のKindleはデザインが悲惨だったし、値段も高かった。第3世代でデザインはちょっとマシになり、売り上げが急増する。最初から馬鹿売れだったiPhone/iPadに比べると、Kindleはドジなダメ男が4年の歳月をかけて立派に成長したスポ根物語みたい。もっともiPodからiPhoneへは5年半かかっている。

さらにAppleとの対比で言えば、Appleがデバイス(iPhone/iPad)を元にクラウド(iCloud)に進出しようとしているのに対して、Amazonはクラウド(AWS/EC2/S3)を元にデバイス(Kindle)を確立しようとしている。iPadは推定原価の2倍の売値で、Kindleはおそらく原価割れしてる。また、Appleは本質的に機械屋だし、Amazonは基本的に小売り店だという素性の違いもある。しかし、どちらも洗練された強力なソフトウェアを持っていることが、他と一線を画している。

さて、今回発表された第4世代Kindleは、無印Kindle、Kindle Touch、Kindle Fire(そして第3世代を改名したKindle Keyboard)がある。実際に最も売れるのは無印KindleとKindle Touchだろうが、これまたiPadとの対比としてKindle Fireが注目される。このKindle Fireは初めて登場したiPadに対抗し得るタブレットだから。そして、ハイエンドとローエンドの違いはあれ、この2機種に共通した必勝パターンが見て取れる。

  • 技術を隠す。
  • OSを隠す。
  • 機能を削る。
  • ボタンをなくす。
  • ロゴをなくす。
  • キャリアに依存しない。

そして、

  • 安い。

ちまたのタブレットはこれらの正反対。正反対を狙ってるワケじゃないかもだけど、結果的に正反対。これらが必要条件だと分かっていたとしても、これらを実現するだけの後ろ盾がない。だから、凡百のタブレットは屍だけが残り、iPadとKindleとの二極化が進む。

勝ち組のAppleとAmazon。でも実はビジネス的側面とは直接関係のないところで同じ風を感じたのがKindle Fireのコマーシャル・ビデオ

Kindleこそが書物の正統的な後継者であると言わんばかり。iPadのビデオが生活や文化を強く意識させるのと同じ様に、Amazonは歴史を援用している。つまり、技術や経営や企画だけでは不十分で、人文科学あるいは文芸芸術がキーになるってこと。かつてSteve Jobsはテクノロジーとリベラル・アートの交差する地点にAppleを位置づけた。Jeff BezosはKindleを歴史の中に位置づける。このような感覚と思考こそが重要であり不可欠。それがなければ、人であれ企業であれ、つまらない木偶の坊になってしまう。

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