意思決定はフリーに

ウィトゲンシュタインの「論理哲学論考」、有名な最後の命題は「語りえぬものについては、沈黙しなければならない」だ。これにチューリングらの計算可能性やゲーテルの不完全性定理などを付け加えても良いが、日常生活においては「判断できないことについては、沈黙しなければならない」と言い換えることができるだろう。彼らが示したように、判断できないことは確かに存在する。

だが、僕たちは常に判断することを求められる。しかも「よく考えて後悔しないように正しく判断しなさい」と子供の頃から言われ続けている。判断できないことを判断するプレッシャーは、ますます判断を困難にする。その袋小路から逃れられないので、人は優柔不断になって停滞したり、付和雷同して判断から逃げたりする。やがては前例主義や教条主義が便利なツールとして幅を利かせる。その結果として社会は中庸になって停滞し、時には声高な意見が声高であるという理由だけでまかり通る。

では、積極的に「判断できないことを判断する」には、どうすれば良いか? もちろん、それは本質的に無理無茶だ。不可能であり、理不尽でもある。ただし、唯一と思える解決策があり、それは「ランダム」に選択することだ。何かを決めななければならない時、何かを選ばなければならない時、どうすべきか考えても分からないなら、コインを投げれば良い。「下手の考え休むに似たり」と言うように、それ考えても無駄なのだから。

コインでもいいが、同じことをワン・タップで得られるのが「Yes|No Free」だ。このアプリを起動するとYesかNoかが表示される。ただそれだけだ。公衆の面前でコイン投げが憚られる時でも、何食わぬ顔をして判断を下すことができる。最初期から(それこそJailbreakしかなかった頃から)提供している、もっともシンプルにして、もっと有益なアプリだと信じて止まない。

Yes-and-No-500

Yes|No Freeで複数の選択肢から選ぶ時は、ステップ数を増やすだけだ。ただ、これは面倒であるので、もうひとつ作ったのが「意思決定 Free」だ。こちらは2から20までの範囲で選択肢の数を設定して、ルーレットのようなホイールを回す。回転が止まった時に上部のマークが示す数値が結果だ。数値をゼロ始まりにして選択肢を10個(0から9まで)にすれば、複数回数値を得ることで任意の桁数の選択肢にも対応できる。

Decisions-500

Yes|No Freeも意思決定 Freeも無償であり、ファイル・サイズも小さいので、是非ともインストールして常備して欲しい。繰り返そう。「判断できないものについては、沈黙しなければならない」が、それでも判断する必要があれば、Yes|No Freeや意思決定 Freeを使おう。これであなたは優柔不断でも付和雷同でもなくなる。選ばれた結果に従って堂々と行動すれば良い。理由を尋ねられれば、「神託です」と答えるだけで十分だ。

コイン投げ、サイコロ、くじ、占い、これらはすべて古くから伝わる叡智であり、現代においても有効だ。もっとも、宗教や科学はしばしばランダムを否定してきた。しかし、中世の宗教社会と近代の科学社会が何をもらたらしたかを考えてみよう。ランダムは決定論と自由意志を超越する手段であり、ランダムは最速の判断手法でもある。Yes|No Freeと意思決定 Freeはそれをスマートに実行する。

誤解のないように付記しておくと、ここではあらゆる判断をランダムに委ねることを提案していない。判断可能であり、判断に責任を持てるなら、あなたは自分の意志(意思)で判断するだろう。それは私の知ったことじゃない。そうではなく「判断できないこと」に思い悩む愚行を避けるためにランダムが使えるということだ。サクっと決めてサクっと進む、それが最適解だと思う。

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