iPadの国のアリス

今日はティム・バートンの「アリス・イン・ワンダーランド」の日本公開なので、それにかこつけてAtomic Antelopの「Alice for the iPad」について少々。余談ながら、USでは3/5に映画が公開されているので日本では1ヵ月少々遅れ。劇場映画は、オールドウェイブなエンターテイメント・メディアとしては、まだまだ元気なほうかもしれないけど、このようなアクセス性の悪さは今後の命取りになりそう。

さらに余談ながら、子供魂一直線なディズニー版アリスはともかくとして、ヤン・シュヴァンクマイエル版アリスを超えるか否かが、個人的なティム・バートン版への興味のひとつ。さらにさらに余談ながら、IMAXなどの3D版ではなく、通常の2D版で観る予定。Avatorのようなゴージャスな幻想より、ティム・バートンお得意のチープな幻想の方が、書き割りっぽくて3D映えしそうなんだけど、悲しくもないのに涙がボロボロ出る過酷な視覚装置に耐えられないのね。

さて、Alice for iPadは、その名の通りiPad専用の動く絵本といった風情の50ページの電子書籍アプリケーション、物理シミュレーションを活用したアニメーション20種類付き。もちろん、オリジナルはルイス・キャロルの物語、ジョン・テニエルの挿画による「不思議の国のアリス」。最初だけ有効なプレミア価格っぽい1,000円(US$8.99)がやるせないけど、無償のLite版もあるので、取り敢えず試してみるといいね。

それで、オールド・スクールの人たちが口を揃えて言うには、これはCD-ROM時代(1990年前後)のマルチ・メディア・タイトルの再来だ、ってこと。多くの人が既視感による軽い目眩に襲われている。私もそう思う。直接的な関係はないけど、当時の作品には金子國義(絵画)+加藤和彦(音楽)による「Alice」ってのもあった。

Atomic Antelopの連中も軽くCD-ROM時代を体験していそうだし、新しい皮袋に古いワインを入れようと思ったんじゃないかな? それは全然独創的ではないし、鮮やかな衝撃に欠ける。ただ、単純な発想や古いアイディアでも、ある程度のクオリティで最初に実現すれば勝ちってことになる(誰も見向きをしない場合もある)。そして(再)発見された市場に魑魅魍魎が集まり、活況化すると同時に殺伐としていく。だから先駆者も楽じゃない。卵を立てたコロンブスも、後年は不遇を重ねたようにね。

ところで、CD-ROM時代の終焉から20年ほどを経て、今日のモバイル時代に何故インタラクティブ絵本が復活するのかと言えば、その間のインターネット/WEB時代が実はコンテンツ鑑賞に適していなかったからなんだろうね。通信帯域と通信費用の問題もあるけど、それ以上にインターネットはパッケージという概念が成立しにくい。そして、実体感のない雑多な情報が混在し、縦横無尽のリンクが誘いかける世界では、ユーザの関心が一定の場所に留まることはないからね。

だから、AjaxとかFlashとかで同様のコンテンツを作ることは可能だろうし、実際にも結構作られているんじゃないかと思うけど、それらが話題になることはない。ふ〜んって感じでオシマイだから、コンテンツから対価を得ることもできない。せいぜいがGoogle税を納めて僅かな間接対価を得ることにすがるしかない。それって制作者や表現者にとって屈辱以外のナニモノでもない。

ここでもオープンなインターネット的状況が抱える問題点が露呈していると思うな。それが悪いってことじゃなくって、それだけでは済まないってことね。インターネット的オープン性を確保しながらも、ある種の囲い込みによる洗練が必要とされていると思う。それがiPhone/iPadでの垂直統合型の成功だし、App Storeと煌めくアプリケーション群によって加速されている。そのような場所であるからこそ、古くて新しいジャンルが舞い戻ったってわけ。

【追記】「それからのアリス」を制作していた頃は、プロトタイプたる「地底の国のアリス」からシュヴァンクマイエルの絵本まで結構買い込んでいたので、ちょっとしたキャロリアンだったりします(でも本当にちょっとだけ)。

iPadの国のアリス” に1件のフィードバックがあります

  1. ピンバック: [朝刊]サンフラットさんの気合い iPad シミュレータに涙した。 Papi Jump for iPad は迫力あり。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA