小さな作曲家の物語

開発秘話ってほどでもないんですけど(笑)カール・バルトス氏とジャン=マルク・レダーマン氏との共作「MINI-COMPOSER」の制作過程で印象に残ったことをメモ程度に….

まず、私は受託開発の経験が少ない。それがヤなわけじゃないけど、自分のことだけでテンテコマイってのが実情。数少ない例外はiPhone黎明期のクウジットさんの「ロケーション・アンプ for 山手線」と頓智ドットの「セカイカメラ」(初期バーション)くらいかな。いずれも大きなお題はありつつも、具体的には自由にアイディアを投入させていただいた。もちろん、相手は日本人だから日本語でディープな議論も遺憾なくできる。

これに対してMINI-COMPOSERでは、当初から50-50の対等の関係で制作することが前提。だからカールのアイディアも私のアイディアも同じように尊重され、折り合いをつける必要がある。何をどのように作るかという根底部分での合意形成が重要なワケ。でも、お互いに相手の趣味趣向まで理解しているわけじゃないから、これが大変。

しかも、直接会って話し合うことも難しいし、英語でのメールの遣り取りも頓珍漢気味(彼らも英語ネイティブではないはず)。Skypeも悪くないけど、じっくり考えるには適さない。テクノポップ界の大御所に対する配慮&遠慮も一応ある(笑)。ex-KWとダイアトニック・スケールとは何ぞやと応酬するは大変だよ。A#とB♭の違いとかね。

さて、スタート地点は「シンプルなステップ・シーケンサでドラムとサイン波だけ」というもの。それは簡単、アっと言う間にできるよね。でも、それだとカールらしさがどこに発揮されるのかが分からない。それにシーケンサと言われると音楽制作ツールとの印象が強くて、あれも必要、これも必要と思ってしまう。初期の設定画面はこんな感じで、もっと壮絶なバージョンもありました。

mini-composer-proto

このようなプロトタイプが叩き台になるんだけど、UIのスケッチや操作のフローを描いてくれと頼んでも、短い文章が返ってくるだけ。これは勝手な想像だけど、彼らは音楽脳なのでUIや操作を図式化したり、言語化するのは苦手かもしれないね。フツーの請負プログラマなら途方に暮れちゃいそう。

ともあれカールが一貫して主張していたのは、とにかくシンプルにしたい、ってこと。だから、テンポ設定は要らない、ボリューム設定も不要、波形設定もナシ、ピッチ設定も面倒…という具合で、とうとう設定画面自体が消滅。なんだかドイツ人にワビ・サビを教えられている気分(笑)。

かくしてベースもなければ調性も固定のシーケンサになった次第。だけど、サウンドの作り込みは猛烈ダッシュ状態。結構いいんじゃない?と思っていても、気に入らないので全部入れ替えるから待ってろ!みたいな調子。さすがボクはオンガッカです。絶妙のキャラクター付けで、設定が皆無でも(むしろ、それゆえに)最高に楽しめますね。ツールと作品のちょうど中間地帯にうまく降り立ったんじゃないかな。

一方で私の役目と言えばアプリ制作そのものなんだけど、プロトタイプを提示してUIをまとめながら、オーディオ・エンジンの調整に力を入れてました。最初はシーケンスをperformSelectorやCALayerなどでお茶を濁していたものの、サウンドがカッコ良くなるにつれてツラくなり、最終的にはCoreAudioのオーディオ・レイトでビシバシ駆動。これでアニメーションなどもベクター・サイズ(+α)での誤差になり、かなりタイトになったと思うな。

さらにはバカでかいアニメーションを入れたり、ランダマイズ機能やスクラッチ機能を入れたり。このあたりはプチ・アルゴリズミック・コンポジションなワケで、MaxやSuperColliderで散々やってきた秘伝の味(笑)。でも今回は軽くフレイバーをまぶした程度ね。ちなみに、この手のアイディアは事前に説明せずに、実際に動かして、どう?と尋ねるのがイイみたい。

未だにスッキリしないのはグラフィック・デザイン。何しろセンス・ゼロの私がやっているから、情けないことこの上ない。知人のデザイナに手伝ってもらおうか?と持ちかけたものの、そのあたりは不満がない様子。考えてみれば、どこか間抜けなダサカッコイイ感じが持ち味だよな〜と思い、強制的に納得しています。

mini-composer-proto-red

他にも小さなエピソードや公表が憚られる話もありますが、全体としては楽しい作業で、見知らぬ他人とのコラボレーションとしては大成功だと思うな。もともとは私のSnowflakesOkeanos Buoysのビデオを見て興味を持ったそうで、求める感性に近いんでしょうね。

それから、当初はモタつき気味だった制作テンポが中盤以降どんどん加速するあたりは圧巻でした。特に震災支援を考えると、モタモタしていては意味が薄れるので、一日でも早く完成させる原動力になりました。音楽もアプリも下手をすれば延々とイジリ続けちゃうから、お尻に火をつけることはイイことです。Light My Fire !

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